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《雨雲》を前に

 9月12日、秋野不矩美術館で翌13日から開催される特別展「風景へのまなざし」の内覧会に出かけた。

 株式会社ヤマタネグループの所蔵品から、秋野不矩作品は《雨雲》(1991年)、《シヴァ寺院Ⅰ》(1990年)が展示された。


雨雲 Rain Clouds 1991年(平成3)株式会社ヤマタネ 蔵
雨雲 Rain Clouds 1991年(平成3)株式会社ヤマタネ 蔵

 《雨雲》の乱れ飛ぶ雨雲の様を見ていたら、いつしか秋野不矩の視点に立って、彼女のこころの奥を覗き込むような、呼応する魂のゆらぎを覚えた。

 《雨雲》が制作された1991年の夏、わたしは秋野不矩と共にインド、オリッサ州を旅している。《雨雲》は翌年にひかえた佐賀町エキジビットスペースでの個展に向けて描かれた、横幅3.66メートルの大作である。

 佐賀町の個展のため出版された画集『秋野不矩 インド』(1992年12月)をひもとくと、《雨雲》には「ガンジス河のモンスーン/雨雲が乱れ飛ぶ」と説明がある。夏の旅で、われわれはガンジスを訪ねることはなかった。なかったのだが、秋野不矩は旅から戻り、これまで何度も旅してきたインドが、ふたたび目の前に甦っていたのではないだろうか。

 1964年、最初の1年間にわたるインド滞在から帰国した翌年、秋野不矩はインドシリーズの個展を開いた。《平原落日》《室内》《たむろするクーリー》などの出展作の中に《ガンガー》がある。「(《ガンガー》は)雨期の河の上空に乱れ飛ぶ雨雲をアブストラクト風に試作した。」「わが青春 秋野不矩 11」『静岡新聞』1987年2月10日。〝試作〟ということは、何度もこのモチーフに挑み、彼女が心に抱くガンジスのイメージを摑みとる試みということだ。事実、不矩はガンガーを幾度となく描いた。《夜のガンガー》(1964年)、《ガンガー》(1979年)、《雨雲》(1991年)

 雨期到来の六月、豪快なスコールの襲来する季節である。既にガンジスの河は増水して海のように広がり、二マイル先の対岸は水かさにかき消されて見えない。浮草、流木を交えてとうとうと流れるガンジスの激しい濁流を毎日、そのガート(沐浴するための石段)に立って眺めた。 ある日、その濁流の黄褐色の波間に黒くイルカが跳ね上がり、たちまち波の下に消えた一瞬、大河ガンガーを象徴して深く心に残った。(同前)

 ガンジスの上空を乱れ飛ぶ雨雲、黄褐色の濁流、波間に跳ね上がり消えたイルカの影、それらは秋野不矩の眼底に焼きつき、筆を執ればいつでも呼び覚まされる心象風景となった。

 
 
 

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